写真撮影には欠かせないレンズ。
レンズ交換が可能な一眼レフカメラやミラーレスカメラはもちろんのこと、コンパクトデジカメやスマートフォンだってレンズがなければ撮影はできません。
レンズは実際に撮影しなくてもスペック(諸元)を見れば大まかな性能を知ることができますが、センサーサイズによってはそのスペックを鵜呑みにすると大きな勘違いをしてしまう可能性もあります。
「35mm換算」とか「フルサイズ換算」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
「35mm換算値」を理解した上で、レンズの「焦点距離」「絞り」「被写界深度」の関係がわかっていれば、そのレンズやコンパクトデジカメでどんな写真が撮れるか想像することができます。
ということで、今回のテーマは「レンズ」について。
これからレンズやコンパクトデジカメの購入を考えているあたなの参考になるようにわかりやすく説明します。
焦点とは焦げる点
あなたも子供の頃に虫メガネで太陽の光を集めて紙を焦がしたことがあると思います。
その時、そのレンズと紙との距離をそのレンズの「焦点距離」と言います。
文字通り「焦げる点」ですね。
これが虫メガネの焦点距離の定義ですが、撮影用のレンズは虫メガネのように1枚のレンズではなく「○群△枚」というように複数のレンズから構成されています。
そのためレンズの中心がどこかはユーザーからはわからず、虫メガネのように直接紙との距離を測ることが難しいのですが、そんなことにこだわる必要は全くありません。
レンズには焦点距離が記載されていますから。
虫メガネの場合、例えば焦点距離が10cmのレンズと30cmのレンズでは30cmのレンズの方が紙からの距離が大きくなります。
同じように撮影用のレンズも焦点距離が大きいレンズの方がレンズの筒(鏡筒)の長さが長くなることが多いですが、レンズの設計によっては必ずしもそうではない場合もあります。
一般的には「焦点距離の大きいレンズは長いことが多い」というくらい知っていれば良いでしょう。
イメージサークル内のセンサーに当たった部分が記録される
レンズが丸いのに写真が四角いのはなぜでしょうか?
それはセンサーが四角いからです。
当たり前ですね。
でもレンズは丸いのでレンズを通ってくる映像も丸いんです。
この丸い映像のことを「イメージサークル」と言います。
そしてイメージサークルの中でセンサーに当たった部分だけが記録されます。
ということは、イメージサークルは必ずセンサーよりも大きくなければなりません。
そうでなければ四角い写真の四隅に何も写らない部分ができてしまいますからね。
ところで「フルサイズのイメージセンサー(撮像素子)でなければダメなのか?」という記事で書きましたが、センサーのサイズは何種類もありました。
このイラストからもわかるように、同じイメージサークル、つまり同じレンズを使ってもセンサーのサイズが異なれば写る範囲も異なることがわかるでしょう。
こうなってくると複雑すぎてわけがわからなくなりますので、世の中では最も大きいフルサイズのセンサーを基準に考えられています。
フルサイズのセンサーは過去に一般的に普及していたフィルムのサイズと同じでそのフィルムサイズを35mm版と呼んでいました。
そういう経緯で、「35mm換算」とか「フルサイズ換算」という言葉があります。
あなたの持っているカメラのセンサーに応じて35mm換算をすることで、どんな範囲のものが写るかが理解できるのです。
この説明だけでは理解が足りないと思いますが、この先を読み進めればなんとなくわかってくるかと思います。
レンズの焦点距離は50mmが標準
虫メガネのところで書きましたが、レンズには「焦点距離」という固有の値があります。
撮影用のレンズの場合、この焦点距離は「写る範囲=画角」だと思ってください。
同じ位置に立って撮影する場合、
・焦点距離が小さいと写る範囲は広く
・焦点距離が大きいと写る範囲が狭く
なります。
ではどのくらいの範囲が写るのか?
フルサイズのセンサーに焦点距離50mmのレンズをつけると、人があまり意識せずに見えている範囲(視野)と同じくらいが写ると言われています。
このため50mmくらい(多少前後しても問題ありません)のレンズのことを「標準レンズ」と言います。
そして50mmよりも長いレンズのことを望遠レンズ(テレレンズ)、短いレンズのことを広角レンズ(ワイドレンズ)と言います。
また、焦点距離が可変式のレンズもたくさんあります。
あなたのレンズも可変式ではないでしょうか?
このように焦点距離が可変式のレンズをズームレンズ、逆に一つの焦点距離しか使えないレンズのことを単焦点レンズと言います。
ズームレンズは同じ位置から被写体を大きく写したり小さく写したりすることができますが、単焦点レンズの場合には被写体を大きく写したければ自分が近づくしかありません。
ではいつでもズームレンズがいいかというと、そう単純な話ではありませんから安易にズームレンズばかりを選ぶ必要はありません。
35mm換算値を理解しないとレンズが選べない
では、実際に僕のコンパクトデジカメ(キャノンS120)の焦点距離を見てみましょう。
5.2-26.0mmというのがレンズの焦点距離で幅がありますので、ズームレンズであることがわかります。
50mmよりもはるかに小さい数値なので、超広角(ワイド)レンズかと思われるかもしれませんが、そこがレンズの理解を複雑にしています。
そもそも普通のコンパクトデジカメですから、普通の写真が撮れないと困りますよね。
つまり、標準レンズを搭載していないと都合が悪いわけです。
そこで先ほど述べたセンサーサイズによる写る範囲(画角)の違いを思い出してください。
このカメラのレンズスペックを説明書で調べると
5.2(W)-26.0mm(T) 35mm
35mm換算(フィルム換算)24(W)-120mm(T)
と書いてあります。
(W)はワイド(広角)、(T)はテレ(望遠)の略です。
レンズには固有の焦点距離があると述べましたので、5.2-26.0mmというのがこのズームレンズの実際の焦点距離です。
50mmよりもかなり短い超広角レンズではありますが、それはフルサイズのセンサーで写す時の範囲(画角)の話です。
これはコンパクトデジカメでフルサイズよりもかなり小さいセンサー(説明書によれば1/1.7型)なので、写る範囲もイメージサークルの中心部のごく狭い範囲であることが理解できると思います。
このため、実際の焦点距離の下に書いてあるのが「もしこのセンサーがフルサイズだと仮定したら24-120mm相当の焦点距離の範囲が写りますよ」ということです。
このことを「35mm換算値」とか「フルサイズ換算値」と言います。
50mmが真ん中辺にありますよね?
なのでこのレンズは標準的なズームレンズと言えます。
実際のセンサーサイズはフルサイズよりもかなり小さいので、イメージサークルもフルサイズセンサーほどの大きさは必要ありません。
この小さなセンサーが収まるだけのイメージサークルがあれば十分ですので、レンズ自体もとても小さく、文字通りコンパクトに作ることができるのです。
このため、コンパクトサイズでも写る範囲(画角)はフルサイズなどのカメラと変わらないのです。(センサーが小さいことだけは変えようのない事実ですが)
このようにコンパクトデジカメの場合にはレンズ交換が不要なので、センサーサイズの設計も各メーカーの自由で、それにあったレンズを自由に設計して搭載できます。
しかし、レンズ交換が可能な一眼レフカメラやミラーレスカメラの場合にはセンサーサイズの規格が決まっています。
また、フルサイズとAPS-Cサイズの両方のカメラを発売しているメーカーなら、異なるセンサーサイズでもレンズの互換性があり、お互いのレンズを交換することなども可能です。
ただ、イメージサークルの大きいフルサイズ用のレンズをAPS-Cにつけると写る範囲が狭くなるだけですが、APS-C専用のレンズはイメージサークルが小さいのでフルサイズのセンサーにつけると四隅が写らなくなってしまう場合があります。
50mmの標準レンズをAPS-Cセンサーにつけても(フルサイズの)50mmよりも狭い範囲しか写らないことは理解できるでしょう。
では、「どのくらい狭くなるか?」というと、計算式があります。
APS-C:使うレンズの焦点距離×1.5(キャノンは1.6)
フォーサーズ:使うレンズの焦点距離×2
これが35mm換算値(フルサイズ換算値)になります。
例えばニコンのAPS-Cに(35mm換算と同じ数値で分かりづらいですがあえて)35mmのレンズをつけると(もしこのカメラがフルサイズだと仮定したら)約50mm相当の画角になるわけです。
規格が統一されているので、どのレンズをつけても同じ計算式で換算できます。
これがレンズ交換式カメラの焦点距離の考え方です。
なんとなく理解してもらえましたか?
ちなみに、ここまで理解できていればAPS-Cセンサーはフルサイズよりも小さいのでイメージサークルも小さくて済むこともわかるでしょう。
そうなるとAPS-C専用のレンズはフルサイズほど大きく作る必要はありませんから安くなりますが、そのようなレンズをフルサイズのカメラにつけてしまうと、フルサイズセンサーよりイメージサークルが小さいので四隅が写らなくなってしまいます。
このことも頭に置いて、これからのレンズやカメラを選んでいく必要があります。
絞りを変えると被写界深度が変わる
焦点距離と同じくレンズにとって重要なスペックが「絞り」です。
レンズの絞りとはレンズを通ってくる光の量をコントロールするための穴のことで、大きくしたり小さくしたりすることができます。
しかし、レンズの筒(鏡筒)の太さには限界がありますので、絞りの穴を大きくするには限界があります。
この穴が一番大きい時の絞り値を「開放絞り値(解放F値)」と言い、レンズの性能を表す指標となっています。
絞りの定義はちょっと難しいので覚える必要はありませんが、レンズの焦点距離/穴の口径です。
例えば、焦点距離50mmのレンズに直径25mmの穴が空いていれば、その時の絞り値(F値)は2.0になり、穴が小さくなればなるほど数値は大きくなります。
穴を小さくするのはそれほど難しくないのですが、大きくするのには筒(鏡筒)の太さの限界があるので、解放F値の小さなレンズは太く値段も高くなります。
ではなぜ解放F値の小さいレンズが良いのかというと、穴が大きければそれだけたくさんの光を取り込むことができるので、暗い状況などでも使えるのです。
また、一眼レフカメラは構造上ファインダーを覗くときには明るく見やすいように常に解放F値になっていて、撮影する時だけ設定した絞り値になってシャッターが切れる仕組みになっています。
このことで暗い状況でも見やすくてピント合わせの精度も上がります。
このような解放F値の小さな(穴の大きな)レンズのことを「明るいレンズ」と言い、値段も高くなるのです。
レンズ交換式カメラの場合、一般的には解放F値2.8程度よりも数値が小さいと明るいレンズと言っていいでしょう。
では、先ほどの僕のコンパクトデジカメの絞りを見てみましょう。
1:1.8-5.7と書いてあるのが解放絞り値です。
ここにも幅がありますが、これは1.8〜5.7の範囲で絞りが使えるわけではなく、ズームレンズなので焦点距離が5.2mmの時の解放F値が1.8、焦点距離が5.7mmの時の解放F値が5.7という意味です。
絞り値の計算式を考えれば広角側では解放F値を小さくするのが簡単で望遠側では解放F値がどうしても大きくなってしまう理由はわかるでしょう。
そして、これよりも穴を小さくすることは可能なので、F値はそれぞれの焦点距離に応じて記載されている数値よりも大きい値(小さい穴)は使えます。
このようにズームレンズの場合には焦点距離が変わるので、それに応じて解放F値も変わるのが一般的ですが、レンズ交換可能な高級レンズになるとズームレンズであっても解放F値が変わらないレンズもあります。
ズームレンズでかつズーム全域で解放F値が2.8のレンズとなると非常に高価なレンズですが、このスペックのレンズを買ってしまえばその後に後悔することはないほどのレンズですよ。
キャノンやニコンの純正ならちょっと手が出しにくい価格ですが、社外品(シグマやタムロン)などなら私にもなんとか買えました。
被写界深度をコントロールする方法
被写界深度(ひしゃかいしんど)とはピントが合っている範囲のことです。
被写界深度には、
・ピントの合っている面に対して手前に浅く奥に深い
・レンズの焦点距離が同じならF値を大きくすればするほど(穴を小さくすればするほど)被写界深度は深くなる
・F値が同じならレンズの焦点距離が短いほど被写界深度は深くなる
・レンズの焦点距離とF値が同じなら撮影距離が遠くなるほど深くなる
という特徴があります。
カメラ初心者の方は「F値を小さくして被写界深度を浅くしボケを大きくする」という安易な考えになりがちですが、実際にはレンズの焦点距離や撮影距離を考慮するともっと効果的にボケをコントロールすることができるのです。
最後にあなたのカメラ(レンズ)やスマートフォンのスペックを確認してみてください。
今まで述べてきたことを総合的に考えてレンズを評価すると、あなたのレンズの特徴がわかるかと思います。
ボケの表現が得意なレンズ、被写界深度を深くしてハッキリとした表現をする方が得意なレンズ、なぜ高いレンズが必要なのか、などあなたならもう理解できるでしょう。
そして全てにおいてなんでもできるスーパーなレンズは存在しないこともわかると思います。
今回はレンズの焦点距離と絞りについてのみ説明しましたが、他にも様々な機能がありますので、また別の記事で書くこともあるかもしれません。
それらも含めて、ぜひこれからのレンズ選びの参考にしてください。
まとめ
最後に今回の学びをまとめます。
・レンズには固有の焦点距離がある
・焦点距離が同じでもセンサーサイズが異なれば写る範囲(画角)も異なる
・35mm換算値(フルサイズ換算値)を見れば大体の画角を知ることができる
・レンズの絞りは穴の大きさを変えることで入ってくる光の量をコントロールできる
・絞りだけでなく焦点距離や撮影距離などを変えることで被写界深度(ボケ)をコントロールできる
注意
この記事ではわかりやすさを優先していますので、必ずしも正確な表現をしていないことや、あえて説明していない部分などもありますのでご了承ください。